日本のGXを加速させる政策 ~カーボンプライシング、GX経済移行債、再エネ導入~

日本のGXを加速させる政策 ~カーボンプライシング、GX経済移行債、再エネ導入~

日本のGXを加速させる政策

~カーボンプライシング、GX経済移行債、再エネ導入~

日本は2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、積極的にGX(グリーントランスフォーメーション)を推進しています。

政府は、企業の脱炭素化を支援するため、様々な政策を打ち出しています。

本コラムでは、GXを加速させるための主要な政策として、

  • 成長志向型カーボンプライシング
  • GX経済移行債
  • 再生可能エネルギーの最大限導入

の3つに焦点を当て、それぞれの概要、目的、効果、課題などを詳しく解説していきます。

これらの政策を理解することは、企業が今後のビジネス戦略を検討する上で非常に重要です。

ぜひ本コラムを参考に、自社の脱炭素化に向けた取り組みを加速させてください。

1. 成長志向型カーボンプライシング

1.1 カーボンプライシングとは?

カーボンプライシングとは、CO2(二酸化炭素)の排出に価格をつけることで、企業や家庭がCO2排出量を削減するように促す仕組みです。

地球温暖化は、CO2などの温室効果ガスの排出が主な原因とされています。カーボンプライシングは、CO2を排出することによる環境への影響を「コスト」として可視化することで、排出者に行動変容を促し、脱炭素社会の実現を加速させることを目的としています。

カーボンプライシングとは、CO2の排出に価格を付けることで、企業の脱炭素化投資を促進する仕組みです。企業は、CO2を排出する際に費用負担が発生するため、排出量を削減するインセンティブが働きます。

カーボンプライシングには、主に以下の2つの方法があります。

  • 炭素税: CO2の排出量に応じて課税する方法。
  • 排出量取引: CO2の排出枠を設け、企業間で取引を可能にする方法。

1.2 日本のカーボンプライシング

日本政府は、2023年2月に閣議決定された「GX実行計画」において、成長志向型カーボンプライシングの導入を表明しました。これは、炭素税や排出量取引といった従来型のカーボンプライシングに加えて、新たな制度を導入することで、企業の投資を促進し、経済成長と脱炭素化の両立を目指そうとするものです。

1.3 成長志向型カーボンプライシングの制度

〇炭素税とは

二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量に応じて課税される税金のことです。

地球温暖化対策として有効な手段の一つと考えられており、企業や家庭がCO2排出量を削減するインセンティブを高めることを目的としています。

炭素税の仕組み

  • 燃料の消費量やCO2排出量に応じて税金が課せられます。
  • 税率は、CO2排出量1トンあたりで設定されることが一般的です。
  • 炭素税の税収は、地球温暖化対策や再生可能エネルギーの導入促進などに活用されます。

炭素税のメリット

  • CO2排出量削減を促進: 企業や家庭は、炭素税を支払うことを避けるために、CO2排出量の削減努力を行います。
  • 技術革新を促進: CO2排出量の削減技術の開発や導入が促進されます。
  • 経済成長を促進: 環境関連産業の活性化などを通じて、経済成長に貢献する可能性があります。
  • 地球温暖化対策の財源を確保: 炭素税の税収を地球温暖化対策に活用することができます。

炭素税のデメリット

  • 企業の負担増加: 炭素税導入により、企業の負担が増加する可能性があります。特に、エネルギー多消費型の産業への影響が懸念されます。
  • 国際競争力への影響: 海外と比べて厳しいCO2排出規制が導入された場合、企業の国際競争力が低下する可能性があります。
  • 消費者への影響: 炭素税のコストが製品価格に転嫁され、消費者物価が上昇する可能性があります。
  • 導入・運用の難しさ: 適切な税率の設定や、排出量の正確な把握など、導入・運用には課題もあります。

世界における炭素税

世界では、すでに多くの国や地域で炭素税が導入されています。フィンランドが1990年に初めて導入して以来、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーなど北欧諸国を中心に導入が進み、現在ではカナダ、フランス、ドイツなど、約30の国と地域で導入されています。

日本における炭素税

日本では、「地球温暖化対策のための税」として、2012年から炭素税が導入されています。ただし、現在の税率はCO2排出量1トンあたり289円と、諸外国と比べて低い水準となっています。

政府は、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、炭素税の税率引き上げや、新たなカーボンプライシング制度の導入を検討しています。

炭素税は、地球温暖化対策の重要な手段の一つとして、今後ますます注目されることが予想されます。

 

〇排出量取引とは

排出量取引とは、CO2などの温室効果ガスの排出量を削減するための仕組みの一つで、企業間で排出枠を売買できるようにする制度です。

排出量取引の仕組み

  1. 排出枠の設定: 政府が、各企業に対してCO2の排出枠を割り当てます。
  2. 排出量の削減: 企業は、省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入などによって、CO2排出量の削減に取り組みます。
  3. 排出枠の取引: 排出量を削減できた企業は、余った排出枠を他の企業に売却することができます。逆に、排出量を削減できなかった企業は、不足する排出枠を他の企業から購入しなければなりません。
  4. 排出枠の償却: 企業は、年末に自社のCO2排出量と排出枠を相殺します。排出量が排出枠を超えた場合は、罰金が科せられることがあります。

排出量取引のメリット

  • CO2排出量削減の促進: 企業は、排出枠を売却して利益を得るために、CO2排出量の削減に積極的に取り組みます。
  • 柔軟性: 企業は、自社の状況に合わせて、排出量取引を利用することができます。
  • 経済効率性: CO2排出量を削減するコストが低い企業が排出枠を売却し、削減コストが高い企業が排出枠を購入することで、全体として効率的にCO2排出量を削減することができます。

排出量取引のデメリット

  • 制度設計の複雑さ: 排出枠の割り当て方法や取引ルールなど、制度設計が複雑で、運用コストがかかる可能性があります。
  • 価格変動: 排出枠の価格は、需要と供給によって変動するため、企業にとって予測が難しい場合があります。
  • 不正: 排出量の不正報告や排出枠の不正取引などが発生する可能性があります。

世界における排出量取引

世界では、EU ETS(欧州連合排出量取引制度)が最も大規模な排出量取引制度として知られています。その他にも、ニュージーランド、韓国、中国など、多くの国や地域で排出量取引制度が導入されています。

日本における排出量取引

日本では、2010年に東京都が、2011年に埼玉県が独自の排出量取引制度を導入しています。国レベルでは、2023年2月に閣議決定された「GX実行計画」において、排出量取引制度の導入が検討されています。

排出量取引は、地球温暖化対策の重要な手段の一つとして、今後ますます注目されることが予想されます。

〇賦課金とは

    • 賦課金とは、特定の目的のために、特定の人々や団体に対して強制的に徴収される金銭のことです。

      税金と似ていますが、税金が国の一般財源となるのに対し、賦課金は特定の事業やサービスに充当される点が異なります。

      賦課金の例

      • 再生可能エネルギー発電促進賦課金: 再生可能エネルギーの普及を促進するために、電気料金に上乗せして徴収される賦課金。
      • 土地改良区賦課金: 農業用水の供給や農地の整備など、土地改良事業を行うために、受益者である農家から徴収される賦課金。
      • 漁業調整賦課金: 漁業資源の保護や漁業の振興を図るために、漁業者から徴収される賦課金。
      • 中小企業団体賦課金: 中小企業の振興を図るために、中小企業者から徴収される賦課金。

      賦課金のメリット

      • 特定の事業への安定的な財源確保: 特定の事業に必要な資金を安定的に確保することができます。
      • 受益者負担: 事業の受益者に費用を負担させることで、公平性を確保することができます。

      賦課金のデメリット

      • 負担感: 賦課金は、強制的に徴収されるため、負担感を感じることがあります。
      • 使途の不透明性: 賦課金の使途が明確でない場合、不信感を持たれる可能性があります。

      賦課金は、特定の事業を推進するための有効な手段となりますが、負担感や使途の不透明性など、デメリットも存在します。そのため、賦課金を導入する際には、その必要性や使途について、十分な説明と透明性を確保することが重要です。

〇J-クレジット制度

J-クレジット制度とは、省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。

2013年度から開始されたこの制度は、経済産業省、環境省、農林水産省が共同で運営しています。

J-クレジット制度の仕組み

  1. プロジェクトの実施: 企業や自治体などが、省エネルギー設備の導入、森林整備、再生可能エネルギーの利用など、CO2排出削減や吸収につながるプロジェクトを実施します。
  2. 排出削減量・吸収量の算定: プロジェクトによって削減・吸収されたCO2量を、定められた方法に従って算定します。
  3. クレジットの認証: 第三者機関が、算定された排出削減量・吸収量を審査し、基準を満たしていればJ-クレジットとして認証します。
  4. クレジットの活用: 認証されたJ-クレジットは、排出量取引やカーボン・オフセットなどに活用することができます。

J-クレジット制度のメリット

  • CO2排出量削減の促進: クレジット化によるインセンティブ効果により、企業や自治体のCO2排出削減 efforts を促進します。
  • 多様なプロジェクト: 省エネルギー、森林整備、再生可能エネルギーなど、多様なプロジェクトが対象となります。
  • 信頼性: 国が認証する制度であるため、クレジットの信頼性が高いです。
  • カーボン・オフセット: J-クレジットを活用することで、自社のCO2排出量をオフセットすることができます。
  • 地域貢献: 地域の森林整備や再生可能エネルギー導入を促進することで、地域貢献につながります。

J-クレジット制度の活用例

  • 企業: 自社のCO2排出量を削減するために、J-クレジットを購入し、カーボン・オフセットを実施。
  • 自治体: 地域の森林整備プロジェクトを実施し、J-クレジットを創出して売却することで、財源を確保。
  • イベント: イベントで排出されるCO2をJ-クレジットでオフセットすることで、環境負荷を低減。

J-クレジット制度は、地球温暖化対策を推進するための有効な手段の一つとして、今後ますます重要性を増していくと考えられます。

1.4 導入の目的と効果

  • CO2排出量削減: 企業のCO2排出量削減を促進し、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献。
  • 技術革新: 脱炭素技術の開発・導入を促進し、イノベーションを創出。
  • 経済成長: 新たな産業や雇用を創出し、経済成長を促進。

1.5 課題

  • 企業の負担増加: カーボンプライシング導入により、企業の負担が増加する可能性。
  • 国際競争力への影響: 海外と比べて厳しいCO2排出規制が導入された場合、企業の国際競争力が低下する可能性。
  • 公平性の確保: 業種や企業規模によって、カーボンプライシングの影響が異なるため、公平性の確保が課題。

2. GX経済移行債

2.1 GX経済移行債とは?

GX経済移行債とは、政府が発行する債券の一種で、2050年カーボンニュートラル実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)投資を促進するための資金調達手段です。

2023年5月に成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」に基づき発行され、2024年2月に初めて個別銘柄「クライメート・トランジション利付国債」として発行されました。

今後10年間で、官民合わせて150兆円規模のGX投資を促すことを目標としており、そのうち20兆円規模をGX経済移行債で調達する計画です。

GX経済移行債の特徴

  • 使途が明確: GX関連のプロジェクトに限定して資金が使われます。
  • 長期的な視点: 10年間という長期にわたる投資を支援します。
  • 官民連携: 政府だけでなく、民間企業のGX投資も促進します。
  • 情報開示: 資金の使途や効果について、透明性の高い情報開示を行います。

GX経済移行債の資金使途

GX経済移行債で調達した資金は、以下のようなGX関連プロジェクトに充当されます。

  • 再生可能エネルギーの導入拡大
  • 水素・アンモニアの活用
  • 次世代原子力発電の開発
  • カーボンリサイクル技術の開発
  • 産業部門の省エネルギー化
  • 住宅・建築物の省エネルギー化
  • 蓄電池の開発・普及
  • 水素供給網の整備

GX経済移行債のメリット

  • GX投資の促進: 民間企業のGX投資を促進し、脱炭素化を加速します。
  • 経済成長: GX関連産業の活性化による経済成長を促します。
  • 雇用創出: GX関連分野での雇用創出に貢献します。
  • 国際的な貢献: 日本の脱炭素化への取り組みを国際社会にアピールすることができます。

GX経済移行債の課題

  • 財政健全化: 巨額の債券発行による財政健全化への影響が懸念されます。
  • 資金の効率的な活用: 調達した資金を効率的に活用し、効果的なGX投資を行う必要があります。
  • グリーンウォッシング: 環境負荷削減効果が不明確なプロジェクトに資金が流用される可能性を防ぐ必要があります。

GX経済移行債は、日本の脱炭素化を推進するための重要な政策の一つです。政府は、課題を克服しながら、GX経済移行債を効果的に活用していくことが求められます。

2.2 資金使途

GX経済移行債で調達した資金は、以下のようなGX関連プロジェクトに充当されます。

  • 再生可能エネルギーの導入
  • 水素・アンモニアの活用
  • 次世代原子力発電の開発
  • カーボンリサイクル技術の開発
  • 産業部門の省エネルギー化
  • 住宅・建築物の省エネルギー化

2.3 発行の目的と効果

  • GX投資の促進: 民間企業のGX投資を促進し、脱炭素化を加速。
  • 経済成長: GX関連産業の活性化による経済成長。
  • 雇用創出: GX関連分野での雇用創出。

2.4 課題

  • 財政健全化: 巨額の債券発行による財政健全化への影響。
  • 資金の効率的な活用: 調達した資金を効率的に活用し、効果的なGX投資を行う必要がある。

3. 再生可能エネルギーの最大限導入

3.1 再生可能エネルギーとは?

再生可能エネルギーとは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、自然の力を利用して発電するエネルギーのことです。

化石燃料と比べてCO2排出量が少なく、枯渇する心配もないため、地球環境に優しいエネルギー源として注目されています。

3.2 日本の再生可能エネルギー政策

日本政府は、2030年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの比率を36~38%に引き上げる目標を掲げています。

この目標達成に向けて、以下のような政策を推進しています。

  • 固定価格買取制度(FIT): 再生可能エネルギーで発電した電力を一定価格で電力会社が買い取る制度。
  • 導入支援: 再生可能エネルギー導入に対する補助金制度。
  • 規制緩和: 再生可能エネルギー発電設備の設置に関する規制緩和。

3.3 導入拡大の目的と効果

  • CO2排出量削減: 再生可能エネルギーの導入拡大により、CO2排出量を削減し、地球温暖化防止に貢献。
  • エネルギー自給率向上: 国産エネルギーである再生可能エネルギーの利用を増やすことで、エネルギー自給率向上に貢献。
  • 地域経済活性化: 再生可能エネルギー発電は、地域に雇用や経済効果をもたらします。

3.4 課題

  • コスト: 再生可能エネルギー発電のコストは、依然として火力発電よりも高い。
  • 出力変動: 太陽光発電や風力発電など、天候に左右される再生可能エネルギーは、出力変動が大きい。
  • 系統安定化: 再生可能エネルギーの大量導入に伴い、電力系統の安定化が課題。

4. まとめ

本コラムでは、日本のGXを加速させる政策として、成長志向型カーボンプライシング、GX経済移行債、再生可能エネルギーの最大限導入について解説しました。

これらの政策は、それぞれ目的や効果、課題などが異なります。政府は、これらの政策を総合的に推進することで、2050年カーボンニュートラルの実現を目指しています。

企業は、これらの政策を理解した上で、自社のGX戦略を策定し、積極的に脱炭素化に取り組んでいくことが重要です。

参考文献

  • 経済産業省. (2023). GX実行計画.
  • 環境省. (2023). 再生可能エネルギー.

キーワード

GX, グリーントランスフォーメーション, 脱炭素, カーボンニュートラル, カーボンプライシング, 炭素税, 排出量取引, GX経済移行債, 再生可能エネルギー, 固定価格買取制度, FIT, 2050年, 日本, 政策


注記

  • 本コラムは、2024年1月27日時点の情報に基づいて作成されています。
  • 最新の情報については、関連機関のウェブサイト等をご確認ください。
  • 本コラムの内容は、一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または専門的なアドバイスとして解釈されるべきではありません。

関連記事

  1. 企業経営に役立つSDGsの全貌と成功事例

  2. 【経営者リトリート】従来の研修との違いは?ONEfamilyの志リトリ…

  3. 数字で読み解く!会計・財務分析の中級編~業種別特徴と財務諸表活用術~

  4. 中小企業の経営者向けブログ記事:今こそ求められる「経営のための会計学」…

  5. 「グリーンへの変革」:日本のカーボンニュートラル政策と中小企業への影響…

  6. 地域社会と共に根づく持続可能な未来 – 中小企業による植林…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

カテゴリー