脱炭素経営を始める第一歩!現状把握と目標設定
~CO2排出量を把握し、削減目標を定める~
前回のコラムでは、GX(グリーントランスフォーメーション)の基本的な概念や重要性、そして日本における政策動向について解説しました。
今回は、企業が実際に脱炭素経営を始めるにあたって、まず取り組むべき「現状把握と目標設定」について詳しく解説していきます。
自社のCO2排出量を正しく把握し、適切な削減目標を設定することは、GXを推進する上で非常に重要な第一歩となります。
本コラムでは、CO2排出量の把握方法、削減目標の設定方法、目標達成に向けたロードマップ作成、社内体制の構築、従業員の意識改革など、具体的なステップをわかりやすく解説していきます。
読者の皆様が、本コラムを参考に自社の脱炭素経営をスムーズにスタートできることを願っています。
1. CO2排出量の把握
脱炭素経営を始めるにあたって、まず行うべきことは、自社のCO2排出量を把握することです。
CO2排出量は、「スコープ1」「スコープ2」「スコープ3」の3つに分類されます。
1.1 スコープ1
スコープ1とは、事業者自らによる直接排出量を指します。
具体的には、以下のものが挙げられます。
- 燃料の燃焼: 工場やオフィスで使用する燃料(石油、ガスなど)の燃焼によるCO2排出
- 工業プロセス: セメント製造や化学製品製造などの工業プロセスにおけるCO2排出
1.2 スコープ2
スコープ2とは、他社から供給された電気、熱、蒸気などの使用に伴う間接排出量を指します。
電力会社が発電する際に排出されるCO2なども含まれます。
1.3 スコープ3
スコープ3とは、スコープ1、2以外の事業活動に関連する間接排出量を指します。
サプライチェーン全体における排出量が対象となり、以下のものが含まれます。
- 原材料の調達: 原材料の製造、輸送など
- 製品の使用: 製品を使用する際に排出されるCO2
- 製品の廃棄: 製品の廃棄、リサイクルなど
- 従業員の通勤: 従業員の通勤に伴うCO2排出
- 出張: 出張に伴うCO2排出
スコープ3は、多くの企業にとって排出量の割合が最も大きい部分であり、その把握と削減が重要となります。
1.4 排出量算定ツール
CO2排出量の算定には、以下のツールが役立ちます。
- 環境省「排出量算定ツール」: 環境省が提供する無料のツール。
- 民間企業のツール: より詳細な分析が可能な有料ツールも多数提供されている。
これらのツールを活用することで、より正確にCO2排出量を把握することができます。
2. CO2排出量削減目標の設定
自社のCO2排出量を把握したら、次に削減目標を設定します。
目標設定には、以下の点が重要です。
- 具体的な数値目標を設定する: 「2030年までにCO2排出量を20%削減」のように、具体的な数値目標を設定することで、目標達成への意識を高めることができます。
- 達成可能な目標を設定する: 現状を踏まえ、実現可能な目標を設定することが重要です。
- 長期的な視点を持つ: 短期的な目標だけでなく、長期的な視点に立った目標設定が必要です。
2.1 SBT(Science Based Targets)
SBTとは、「科学的根拠に基づいた目標」のことです。
パリ協定の目標である「地球の気温上昇を産業革命前比で2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標に整合した、CO2排出量削減目標を設定することを指します。
SBTを設定することで、企業の脱炭素化への取り組みが国際的な基準に沿ったものであることを示すことができます。
2.2 RE100
RE100とは、「再生可能エネルギー100%」のことです。
企業が使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とする国際的なイニシアチブです。
RE100に加盟することで、企業の環境への取り組みをアピールすることができます。
3. 目標達成に向けたロードマップ作成
削減目標を達成するためには、具体的なロードマップを作成することが重要です。
ロードマップには、以下の内容を盛り込みます。
- 削減目標: いつまでに、どの程度CO2排出量を削減するか
- 具体的な施策: 目標達成のために、どのような施策を実施するか
- スケジュール: いつ、どの施策を実施するか
- 担当部署: どの部署が、どの施策を担当するか
- KPI: 目標達成度を測るための指標
- 進捗管理: 定期的に進捗状況を確認し、必要があれば計画を見直す
4. 社内体制の構築
GXを推進するためには、社内体制の整備が不可欠です。
- 担当部署の設置: GX推進のための専任部署を設置することで、責任と権限を明確化し、効率的な取り組みを促進することができます。
- 責任者の選定: GX推進の責任者を明確にすることで、リーダーシップを発揮し、全社的な取り組みを推進することができます。
- 委員会の設置: 関係部署からメンバーを集めた委員会を設置することで、部門横断的な連携を強化し、情報共有や意見交換をスムーズに行うことができます。
5. 従業員の意識改革、教育
GXを成功させるためには、従業員一人ひとりの意識改革と行動変容が重要です。
- 研修: GXに関する研修を実施することで、従業員の理解を深め、意識を高めることができます。
- 啓発活動: ポスター掲示や社内報などを通じて、GXの重要性を啓発することができます。
- 表彰制度: GXに貢献した従業員を表彰することで、モチベーションを高めることができます。
6. 具体的なツールや手法
GXを推進するためのツールや手法は、数多く存在します。
- エネルギー管理システム(EMS): エネルギーの使用状況を可視化し、省エネ化を促進するシステム。
- CO2排出量見える化ツール: サプライチェーン全体のCO2排出量を可視化するツール。
- ライフサイクルアセスメント(LCA): 製品のライフサイクル全体における環境負荷を評価する手法。
これらのツールや手法を効果的に活用することで、GXを効率的に推進することができます。
7. まとめ
今回は、脱炭素経営を始める第一歩として、現状把握と目標設定について解説しました。
自社のCO2排出量を把握し、適切な削減目標を設定することは、GXを推進する上で非常に重要な第一歩となります。
本コラムで紹介した内容を参考に、自社のGX戦略を策定し、積極的に行動していくことを期待しています。
参考文献
- 環境省. (2023). 温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度.
- SBTi. (2023). Science Based Targets initiative.
- RE100. (2023). RE100.
キーワード
脱炭素経営, 現状把握, 目標設定, CO2排出量, スコープ1, スコープ2, スコープ3, SBT, RE100, ロードマップ, 社内体制, 従業員意識, 教育, ツール, 手法
補足:パリ協定と1.5℃目標
本コラムで何度か触れた「パリ協定」は、2015年に採択された国際的な気候変動対策の枠組みです。
この協定では、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという長期目標が設定されました。
新しいウィンドウで開く www.jccca.org
地球温暖化による気温上昇のイメージ図
わずか1.5℃の上昇でも、私たちの生活や地球環境に深刻な影響を与えることが予測されています。
例えば、海面上昇による沿岸地域の浸水、干ばつや洪水などの異常気象の増加、生態系の破壊などが挙げられます。
1.5℃目標を達成するためには、世界全体でCO2排出量を大幅に削減する必要があります。
そのため、各国はパリ協定に基づき、それぞれの削減目標を設定し、具体的な対策を進めています。
企業もまた、この目標達成に貢献する重要な役割を担っています。GXを推進し、CO2排出量を削減することは、企業の社会的責任であると同時に、持続的な成長を確保するための重要な戦略と言えるでしょう。
私たち一人ひとりが、気候変動問題の深刻さを認識し、脱炭素社会の実現に向けて行動を起こしていくことが重要です。
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