中小企業の経営者向けブログ記事:今こそ求められる「経営のための会計学」

はじめに

バブル経済崩壊後の長期デフレ、そして近年では新型コロナウイルス感染症の世界的な流行など、日本経済を取り巻く環境は激しく変化しています。このような状況下において、中小企業の経営者は、生き残っていくために何が必要でしょうか?

本書は、京セラ創業者である稲盛和夫氏が提唱する「経営のための会計学」について解説したものです。

稲盛氏は、会計は単なる数字の羅列ではなく、経営の羅針盤であると捉えています。

本書では、稲盛氏が実際に経験した事例を交えながら、会計を経営にどのように活用していくべきかについて詳しく説明しています。

目次

  1. はじめに
  2. 常識にとらわれない判断基準
  3. 経営のための会計学とは何か
  4. 損益計算書と貸借対照表の読み解き方
  5. 財務諸表分析の重要性
  6. 予算管理の重要性
  7. コスト管理の重要性
  8. 内部統制の重要性
  9. 会計情報の活用方法
  10. まとめ

1. はじめに

1980年代後半から始まったバブル経済の熱狂に踊らされ、過剰投資を繰り返した日本企業。そのバブル経済は当然のごとく崩壊し、1990年代初頭よりデフレスパイラルが始まりました。その結果、現在では金融業、建設業、不動産業等、あらゆる産業において、不良資産が増大し、日本の経済界は塗炭の苦しみの中に喘いでいます。

この間、経営者は何をしていたのでしょうか。

経営のあり方をを見直し、抜本的な対策をとろうとしたのは少数であり、多くは不良資産を隠し、業績の悪化を繕うことに努めてきたのではないでしょうか。

そのために、日本の企業経営は、その不透明さゆえに国際的な信用を失い、多くの不祥事を生み出すことにもなったのです。

もし、中小企業から大企業に至るまで経営に携わる者が、常に公明正大で透明な経営をしよう努めていれば、また、企業経営の原点である「会計の原則」を正しく理解していたならば、バブル経済とその後の不況も、これほどまでにはならなかったはずである。

2. 常識にとらわれない判断基準

本記事では、稲盛氏が若い頃に経験した「歩積み・両建て預金」という慣習について紹介されています。

歩積み・両建て預金とは、銀行で手形を割り引くたびに、一定率の「歩積み」預金をを行い、銀行に積み立てていくというものでした。

当時、歩積み・両建て預金は銀行との取引において当然のこととされており、稲盛氏も最初はそれに従っていました。

しかし、後にその仕組みを詳しく調べてみると、歩積み預金は手形割引金利よりも高い金利で運用されており、銀行にとって非常に有利な制度であることに気づきます。

そこで、稲盛氏は歩積み・両建て預金の廃止を訴えますが、周囲からは「歩積みは常識だ」と笑われて相手にされませんでした。

しかし、その後まもなく、歩積み・両建て預金は銀行の利益を上げるための不当な慣習であるとして批判され、廃止されました。

この経験から、「いくら常識だと言われても、道徳的に間違っていると思うことは、必ず最後には世間でも認められるようになる」という確信を得ます。

3. 経営のための会計学とは何か

稲盛氏は、会計を単なる数字の羅列ではなく、経営の羅針盤であると捉えています。

会計は、経営者にとって以下の情報を提供します。

  • 企業の財務状況
  • 経営成果
  • 資金繰りの状況
  • 将来の展望

これらの情報を正しく理解することで、経営者は適切な意思決定を行うことができます。

稲盛氏は、「経営のための会計学」を以下のように定義しています。

経営のための会計学とは、会計の本来の目的である「企業の財務状況を正確に把握し、経営に役立てる」ことを追求する会計学である。

4. 損益計算書と貸借対照表の読み解き方

本記事では、損益計算書と貸借対照表を正しく読み解くための具体的な方法についても説明しています。

損益計算書

損益計算書は、企業の一定期間における収益と費用を計算し、その結果である利益または損失を示す財務諸表です。

損益計算書を読む際には、以下の点に注目する必要があります。

  • 売上高: 企業の主たる収益源である売上高を確認します。売上高が前年比でどのように推移しているか、また、売上高構成比を確認することで、企業の収益構造を把握することができます。
  • 売上原価: 売上高を得るために必要な費用である売上原価を確認します。売上原価が売上高に占める割合である粗利益率を確認することで、企業の収益性の高さを判断することができます。
  • 営業利益: 売上原価以外の営業活動による利益である営業利益を確認します。営業利益は、企業の本来の事業活動による収益性を示す指標です。
  • 経常利益: 営業利益に、営業外収益・費用を加えた利益である経常利益を確認します。経常利益は、企業の通常の事業活動による収益性を示す指標です。
  • 税引前利益: 経常利益から法人税等を差し引いた利益である税引前利益を確認します。税引前利益は、企業の最終的な利益を示す指標です。
  • 税引後利益: 税引前利益から法人税等を差し引いた利益である税引後利益を確認します。税引後利益は、企業が自由に使用できる利益を示す指標です。

貸借対照表

貸借対照表は、企業の特定の時点における資産、負債、純資産の状況を示す財務諸表です。

貸借対照表を読む際には、以下の点に注目する必要があります。

  • 資産: 企業が保有する経済的価値のあるものを指します。資産は、流動資産と固定資産に分類されます。流動資産とは、1年以内に現金化することができる資産であり、現金、売掛金、棚卸資産などがあります。固定資産とは、1年以上使用・所有する予定の資産であり、土地、建物、機械設備などがあります。
  • 負債: 企業が他者に返済する義務のあるものを指します。負債は、流動負債と固定負債に分類されます。流動負債とは、1年以内に返済する義務のある負債であり、買掛金、短期借入金などがあります。固定負債とは、1年以上返済する義務のある負債であり、長期借入金などがあります。
  • 純資産: 資産から負債を引いたものであり、企業の所有者である株主等の権利を表します。純資産は、資本金、利益剰余金、その他の資本剰余金などから構成されます。

財務諸表分析

損益計算書と貸借対照表を単体で分析するだけでなく、複数の財務諸表を組み合わせることで、より深い分析を行うことができます。財務諸表分析には、以下の手法があります。

  • 比率分析: 異なる科目を比較するために、比率を用いる分析方法です。例えば、売上高利益率、自己資本比率、流動比率などがあります。
  • トレンド分析: 過去の財務諸表と比較することで、経営状況の変化を分析する方法です。
  • 業種比較分析: 同じ業種の他の企業と比較することで、自社の立ち位置を把握する方法です。

5. 財務諸表分析の重要性

財務諸表分析は、以下の点において重要です。

  • 経営状況の把握: 企業の財務状況を正確に把握することができます。
  • 経営課題の発見: 財務諸表分析を行うことで、経営上の課題を発見することができます。
  • 経営改善策の策定: 発見した経営課題に対して、具体的な改善策を策定することができます。
  • 将来の展望の策定: 財務諸表分析に基づいて、将来の事業計画を策定することができます。

6. 予算管理の重要性

  • 経営資源の有効活用: 予算を立てることで、経営資源を有効活用することができます。
  • 業績の向上: 予算達成に向けて努力することで、業績向上につながります。
  • リスクの管理: 予算と実績を比較することで、リスクを早期に発見することができます。
  • 従業員のモチベーション向上: 従業員が予算達成に向けて努力することで、モチベーションが向上します。

予算管理の基本的な手順

  1. 経営目標の設定: 企業全体の経営目標を設定します。
  2. 部門目標の設定: 各部門の目標を設定します。
  3. 予算の策定: 経営目標と部門目標に基づいて、予算を策定します。
  4. 予算の実行: 予算に基づいて、業務を実行します。
  5. 予算管理: 予算と実績を比較し、必要に応じて予算を修正します。

7. コスト管理の重要性

コスト管理は、企業の収益性を向上させるために重要な取り組みです。

コスト管理を行うことで、以下の効果が期待できます。

  • 利益の増加: コストを削減することで、利益を増やすことができます。
  • 価格競争力の強化: コストを削減することで、価格競争力を強化することができます。
  • 経営体質の強化: コスト管理を徹底することで、経営体質を強化することができます。

コスト管理の基本的な方法

  • ムダの排除: 業務プロセスを見直し、ムダな作業や工程を排除します。
  • 購買コストの削減: 購買方法を見直し、購買コストを削減します。
  • 生産コストの削減: 生産工程を見直し、生産コストを削減します。
  • 間接費の削減: 間接費を見直し、間接費を削減します。

8. 内部統制の重要性

内部統制は、企業の経営活動を適正に確保するために重要な仕組みです。内部統制を整備することで、以下の効果が期待できます。

  • 経営リスクの低減: 不正行為やミスを防ぐことで、経営リスクを低減することができます。
  • 経営の効率化: 業務プロセスを明確化することで、経営を効率化することができます。
  • コンプライアンスの遵守: 法令や社内規則を遵守することができます。

内部統制の三要素

  • 統制環境: 企業の経営陣や従業員の倫理観や意識など、内部統制を支える基盤となる要素です。
  • リスク管理活動: 企業が直面するリスクを特定し、評価し、対応するための活動です。
  • 統制活動: 業務活動における不正行為やミスを防ぐための具体的な活動です。
  • 情報伝達・コミュニケーション: 内部統制に関する情報を関係者に適切に伝達・共有するための活動です。
  • モニタリング活動: 内部統制が有効に機能しているかどうかを定期的に評価するための活動です。

9. 会計情報の活用方法

会計情報は、経営判断を行うための重要な情報です。会計情報を有効活用することで、以下のことができます。

  • 経営状況の把握: 財務諸表分析などを通じて、経営状況を正確に把握することができます。
  • 経営課題の発見: 財務諸表分析などを通じて、経営上の課題を発見することができます。
  • 経営改善策の策定: 発見した経営課題に対して、具体的な改善策を策定することができます。
  • 将来の展望の策定: 財務諸表分析に基づいて、将来の事業計画を策定することができます。

10. まとめ

本記事では、稲盛和夫氏が提唱する「経営のための会計学」について解説しました。稲盛氏は、会計を単なる数字の羅列ではなく、経営の羅針盤であると捉えています。

中小企業の経営者にとって、会計は経営を成功に導くための重要なツールです。

紹介した「経営のための会計学」を参考に、ぜひ会計を有効活用してください。

「経営のための会計学」の7つの基本原則

  1. キャッシュベース経営の原則:

    収益と費用の差額で「利益」を算出する損益計算中心の企業経営では、「キャッシュ」すなわち資金の流れを把握することができず、利益は出ているのに資金繰りは苦しい、といった状況がよく起こります。稲盛氏は、「儲かったお金はどこにあるのか」を常に問いかけ、お金のことを心配していては仕事ができないとの考え方から、借入を前提とした経営を極力避け、資金的に余裕のある「土俵の真ん中で相撲をとる」経営を第一の原則としています。

  2. 一対一対応の原則:

    経営活動においては、必ずモノとお金が動きます。そのときにモノまたはお金と伝票が必ず一対一の対応を保たなければならないことを「一対一対応の原則」といいます。この原則は、徹底しなければ意外と守られていないことが多いようです。「一対一対応の原則」は、徹することにより、社内のモラル向上を高めると同時にその積み上げである数字が信頼できるものになります。昨今の企業の不祥事の数々を思い起こせば、単純なようですが、重要な原則であることをお分かりいただけると思います。

  3. 筋肉質経営の原則:

    これは稲盛氏の会計学のバックボーンとなっている原則ですが、企業を人間の体に例えるならば、体の隅々まで筋肉が引き締まり、無駄のない体こそが健康で強い体であるように、企業においても無駄な脂肪を削ぎ落とし、筋肉質の体となることが理想です。筋肉質経営とは、ムダな経費を徹底的に削減し、売上高利益率を高める経営を目指すものです。

  4. 完璧主義の原則:

    仕事においては、常に完璧を目指して努力することが重要です。完璧主義とは、妥協することなく、常に最善を尽くすことを意味します。完璧主義の精神を持つことで、従業員の士気向上、品質向上、コスト削減など、様々なメリットを得ることができます。

  5. ダブルチェックの原則:

    どんな仕事でも、必ずダブルチェックを行うようにしましょう。ダブルチェックを行うことで、ミスを防ぎ、仕事の質を高めることができます。

  6. 採算向上の原則:

    企業の経営においては、常に採算性を向上させることを意識することが重要です。採算性を向上させるためには、コスト削減、売上高増加、価格改定など、様々な対策を講じることができます。

  7. ガラス張り経営の原則:

    経営陣は、常に従業員に対してオープンに情報を公開し、透明性の高い経営を行うことが重要です。ガラス張り経営を行うことで、従業員の信頼を得ることができ、経営の活性化につながります。

紹介した「経営のための会計学」を実践することで、中小企業は以下のような効果を得ることができます。

  • 経営状況の把握
  • 経営課題の発見
  • 経営改善策の策定
  • 将来の展望の策定
  • 資金繰りの改善
  • コストの削減
  • 収益性の向上
  • 従業員のモチベーション向上
  • 経営の透明性向上

中小企業の経営者にとって、会計は経営を成功に導くための重要なツールです。

「経営のための会計学」を参考に、ぜひ会計を有効活用してください。

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